仕事で疲れている人でもギリ読める随筆集4選

最近そんなに真面目な本を読めない。何より仕事で疲れている。毎日、大量の記事をチェックしたり、長文のメールにひとつひとつ応答したりしていれば、「よーし、これから文学の勉強だ!まずは『源氏物語』を読破するぞ!」といった気分はまず起こらない。

勤務外だって家事といった手間が必ずあるわけで、貴族のように毎日を趣味に耽溺するような時間は許されない。せいぜいがスマホゲーのログインボーナスがきれないように起動だけしておくというのが関の山だ。

ただ3日書を読まなければ、面貌が悪くなり、口に出す言葉も味気ないものになってしまう(前の記事を参照)ので、ここでは比較的読みやすい随筆を4冊おすすめする。5選にしようかと思ったが、疲れていたからか、あと1冊が何も思い浮かんでこなかった。お許し願いたい。

1:『一日江戸人』杉浦日向子

疲れているときにちょうどいい随筆と言えば、こっちが特段何の用意をしていなくてもスッと頭に内容が入ってくることだと思っているが、特に杉浦日向子の随筆はその条件に当てはまる。江戸の風俗研究家で漫画家、30歳より上の世代にとってはNHKの『コメディーお江戸でござる』の解説担当のお姉さんといえば分かってくれるはず。何よりの良さは読者が江戸についてロクな興味を持っていなくても、読み進めるうちに江戸の町を往来する人々の姿がくっきりと見えるようになることで、語り口が軽妙かつ丁寧、そして優しい。杉浦日向子が饒舌に語る江戸の人々の考え方のユニークさ、おかしさにはホッコリとするものがあって、力なく笑いながら読み進められる。イラストと漫画も挟まっているので、最悪文章が読めないほどに疲れていても絵を眺めているだけで何か癒やされる。個人的には、蕎麦に関する短編がおすすめで、気が付くと休日に蕎麦屋に向かい、日本酒を飲みたくなる。作者に興味を持ったなら、次に『百日紅』という漫画を読むと、度肝抜かれる。

2:吉田健一『汽車旅の酒』

疲れているときに読みたい本のテーマといえば「旅」と「飯」と「酒」で、奇跡的にもこの本には3つの要素がすべて詰まっている。吉田健一は文芸評論家、英文学の翻訳家として活躍した人で、難しい本もいっぱい出しているが、酒飲んで、うまい飯を食べて最高! といった感じの随筆も多く、そっちの方のは今読んでも全然肩ひじ張るようなものではない。最初はちょっと文体が読みにくいと感じる人もいるかもしれないが、力を抜いてリラックスした状態で読むと、なぜか頭にスルスルっと中身が入ってくるようになる。とにかく旅に出て、その間にもうまいモノを食って、酒飲んで、あとは時がたつに任せるといった具合の短編ばかりで、読んでいると仕事しているのが馬鹿らしくなってくる。また「旅行をする時は、気が付いて見たら汽車に乗っていたという風でありたいものである」「寧ろ、行った先のことは着いてからに任せてこそ、旅行を楽む余地が生じる」といった人生の本質も書かれていて良い。ちなみに作中に出ている『金沢』の話は小説にもなっている。こっちはこっちでかなり面白いが、疲れているときに読むと1時間で5ページしか進まないみたいなことになる。それはそれで贅沢な体験なのだが。

3:『色川武大』ちくま日本文学全集

疲れている上に落ち込んでいるという人向けの随筆がたくさん載っている気がする。色川武大は、もうひとつのペンネームの阿佐田哲也の方が多分有名で、麻雀好きなら「哲也-雀聖と呼ばれた男」の主人公だよと言えば一発で分かる。ただ色川武大名義の方の、孤独でデリケートな部分の内面が出ている随筆も好きで、冒頭の『ひとり博打』の孤独に自分の世界を妄想で拡張していく様も面白い。命がけの手術の決まった病院で、なぜか自分の命のことよりも担当医の様子ばかり気になっているような書きぶりの『たすけておくれ』も、人生への諦観がにじみ出ていて謎の迫力がある。どこか自分の人生に冷めている感じの視線があるような気もして、鬱々としたときに読むと沁みる。

4:『内田百閒随筆集』平山三郎編

「大したことは何も書いていなかった気がするが、何かを読んだという手ごたえだけは確かにある」という感想に至るのは、もしかしたら随筆の極致なのかもしれない。まさに疲れたときに読む本。出てくる漢字や用語は他の随筆と比べると難しいものが多いが、いちいち気にしなくていい気がする。内田百閒はもうあんまり説明しなくても良いくらいの文豪なので、気になる人は高校時代の国語便覧を見るといいかもしれない。冒頭で言った通り「子どもの頃から煙草を吸っていた自分が語る節煙の方法」とか「おから食いながらシャンパン飲んでるだけの話」とか「昼夜逆転が直せないけど病院よりホテル泊まりたい」といった実に大したことない話が多い。にも関わらず、内田百閒独特の思考の流れみたいなのにグイグイ乗せられた挙句、良く分からない出口にポーンと放り投げられるような感じがある。こういうタイプの随筆はどの章からページをめくっても良いし、また中身を忘れたタイミングで開いても良い。

これは疲れているときの俺。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。