冬の星

21才の頃だったと思う。12月の冬季休みに青春18切符を買って、東京〜北九州までを普通電車で旅行する計画を立てた。その際、宿泊先はTwitterで呼びかけて泊めてもらうという縛りを設けていて、事前に協力してくれる人たちに呼びかけていたのを覚えている。

ただただ浮かれていたのだ。自分には全国にネットで知り合った人たちが大勢いるし、ダメでも若いから野宿でなんとかなるだろうと。慢心この上ないが、だからこそ向こう見ずな若者に興味を持ってくれる人も少なからずいた。

神戸でのこと。とあるゲーム実況者の方が「泊めてあげてもいいよ」と連絡をくれた。お互い顔は知らない。雪の降る夜中、待ち合わせの駅に落ち合って「はじめまして」とあいさつ。Twitterでは何度も絡んでいたから、少し変な感じがした。その人は、僕より5つ年ほど年上の社会人。一眼見て「モテそうだな」と思った。

静かな住宅街をふたりトボトボと歩きながら、少し言葉を交わす。

「ゆりいかくんは、本が好きなんだよね?」

「ええな、俺はそんなん読まんからな」

「はい、電車旅行中はたくさん読めるのでいいですね」

「そうなんですか」

「あ、でも、詩集は持ってるよ。一冊だけ」

彼の家に着くと、彼のガールフレンドさんが待っていて、ケーキをテーブルに用意していた。それまで忘れていたが、クリスマスだったのだ。

「いいんですか?」

「いいよ、みんなで過ごした方が楽しいし」

3人でクリスマスケーキを囲った。ただ気まずい感じがあまり無かったのは、当時ネットの友人たちの噂話で盛り上がれたからかもしれない。Ustreamやニコニコ動画の有名人の話は、語り尽くせないほどネタがあったのだ。

「これをゆりいかくんに見せたかった」と言って、彼が棚から持ってきてくれたのはチバユウスケの詩集だった。「俺はこれだけは大事にしてるし、繰り返し読んでるんよ」自慢げに満面な笑みを浮かべた。

その夜は、アパートのこたつの中で雑魚寝。彼とガールフレンドさんは、体を寄せ合って遅くまでゲームの話題をしていた気がする。外の雪はしんしんと降り続けていて、コタツの熱だけでは少し肌寒かったが、なぜか旅の中で最も安心して寝られたような気がする。

そのクリスマス以来、彼とは会っていない。しばらくしてから、彼がインターネットでの活動を止めてしまって、そのまま連絡がつかなくなってしまった。

チバユウスケの詩集を見せてくれた時のことは、10年以上経った今でも、ことあるごとに思い出す。それは、ゴールデン街で顔馴染みたちとミッシェルの話題で盛り上がった夜であったり、妻のお腹に子どもがいると分かって、The Birthdayのアルバムを聴き返しながら散歩した昼であったり。別に取り立てて教訓もなく、人に話しても「そうなんだ」としかならないような、平凡なエピソードでしかないのだが。

チバユウスケが亡くなったというニュースを見たときも、思い出したのは冬の神戸の詩集のことだった。あの日、雪が降っていたから、冬の星は厚い雲に覆われていて見えなかったはずだ。そのはずなのだが、頭の片隅には、冬の星と月が寒空の中で輝いていたような気がしてならない。

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