漫画『竜女戦記』が強烈すぎたので紹介する

「すごいの読んじゃったな…」が初読の感想だ。呆気にとられたというか、凄すぎてちょっと引いたというか…。時間が経つうちにジワジワと細かな描写やエピソードが気になって、結局何度も読み返してしまう。

竜女戦記』(平凡社)は今年の5月20日に刊行されたばかりの作品だ。一部の友人たちが(主にジャッキーさんが)発売前からSNS上で激推ししていたので、誰の本だろうと見てみたら「都留泰作」の名前が…! すぐに本屋へと向かって購入し、現在読後の余韻に浸っているところだ。

三匹の竜が住まう国・陀国。戦の絶えないこの国で、また一つ、新たな争いが勃発する。国を追われた「たか」は、家族の命運を背負いながら、この世界にどう立ち向かうのか!? 主婦が天下を取る、壮大な歴史ファンタジーの幕が上がる! 異能の漫画家・都留泰作がおくる、異色の歴史大活劇!!

LINEマンガ

以上がマンガの背表紙にも書かれている物語のあらすじだが、なんていうか…たしかに筋はその通りなんだけど、説明からこぼれ過ぎているモノが多すぎる! 上手に要約すればするほど「いや、すごいのはソコだけどソコじゃない!」と、モヤモヤしてしまう。

どういうことかは冒頭6ページをLINEマンガで読めばすぐ分かるはずだ。「蛇国」の地図1ページから伝わってくる膨大な情報量。ここだけでも「あっ! これは読む側にも相応の“覚悟”が必要だぞ」と思わされる。いわゆる傑作とよばれるものは、導入時からだいたい同様の感触がある。「もうしばらくはこの世界観から戻ってこれないかも」と不安にさえなってしまう。そういった“魔力”が間違いなくこもっている。

もう少し読み進めよう。物語の主人公・たかの幼少期があっさり語られたと思いきや、戦争、父の死、国境越えといった怒涛の展開が繰り広げられる。その間も武士の衣装のデザインや謎の生き物の姿など気になることが多すぎて、1ページごとに目を奪われる。とにかく一コマ一コマに情報がギッシリだ。

しかも半ばから後半にかけて「えっ?そんな展開? えっ? うわっ! かわいそう!えっ! なにこのジジイ! うわっ! はぁっ…」となる(伝われ)。マジの波乱万丈。特にたかの過酷な人生には感情を激しく揺さぶられた。

勘違いしないでほしいが、決して読みにくい作品ではない。むしろ筋をたどるだけならサクサク進む。メインの登場人物たちの感性は割と現代的で、作中には「ヤバい」や「セクハラ」といった言葉が出てくるからだ。世界の常識(や倫理観)は現代のそれと全くズレているが、登場人物の感情の機微については分かりやすいはずだ。

一巻だけではまだまだ語られていない部分が多すぎるので、細かな考察は作品が完結してからにしよう(いつになるんだろう…)。ここまで気になったという人はもう読みはじめた方がいいと思う。

話を冒頭に戻すが、僕がこの本を手にとったきっかけは「都留泰作」という名前を見たからだった。都留泰作先生の大長編SF作品『ナチュン』を読んでしまってからには、手を取らずにはいられなかったのである。

『ナチュン』は、主人公の石井光成が沖縄でのイルカ研究をきっかけにとある事件に巻き込まれていく話だが、これも筋書きをたどるだけでは作品そのものの魅力に到達できないタイプの作品だ。後半の「え、これどういう展開になるの?」と、期待と不安の両方で感情を滅茶苦茶にされたあの感じは、この本だけでしか味わえないようなものだったと思う(というか、このマンガに近いと思えるような作品が全く思い浮かばない)。

あまりにも気になって都留泰作先生が2015年に執筆された新書『〈面白さ〉の研究 世界観エンタメはなぜブームを生むのか』(角川新書)も読んだ。アフリカ民族文化を中心とした文化人類学を長く研究してきた立場から、現代のエンターテイメント作品が読者にどのように受け入れられているのかを分析した本だ。

その中で、エンターテイメント作品は人間のドラマよりも、その土台となる世界こそ優先して着目した方が良いという理論が展開され、世の中の名作と呼ばれる作品(『スターウォーズ』シリーズやジブリ作品など)がいかに世界観を魅力的に描いてみせたかを紹介している。(個人的にエンタメ業界にいる人は必読書だと思っている)

ある小学生が、「マリオの世界に住みたいな」と言って、その兄貴を呆れさせていたという話を聞いたことがあるが、その小学生には、マリオの世界は、現実に匹敵するほどの「リアリティ」を帯びて感じられていたということなのである。(中略)あのゲームのリアリティは、人間の心の中にあるこそある「現実」を正確に突いていたからこそ生まれているのである。

『〈面白さ〉の研究 世界観エンタメはなぜブームを生むのか』

この本を読んだからこそ気づいたことだが、『竜女戦記』は明らかに世界観の「リアリティ」を突き詰めることに心血を注いだ作品となっている。細部まで(人間の感覚や経験に基づいた)リアリティにこだわり、舞台一つで読者の想像力を何倍にも膨らまそうと仕掛けている。

その点についてのこだわりは、平凡社の公式HPの本人インタビューでも触れられているので、詳しくは読んでほしい。『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作にあたる、ジョージ・R・R・マーティンの『氷と炎の歌(原題:A Song of Ice and Fire)』からの影響などへの言及もあり、とても興味深い内容となっている。

ともかく、こちらの想像力を全力で掻き立ててくることは間違いない。何年後に完結かは分からないが、この壮大すぎるファンタジー世界を存分に堪能したいと思っている。

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